時折こんな質問をされることがあります。
「ご自身は作家、または職人のどちらだと思いますか?」
ただただモノを作る仕事につきたいと思っていたので作家だとか職人だとかあまり考えたことはありませんでした。雑誌の記事やテレビ番組では海外の工場で働く職人の姿を見て憧れたことを考えれば職人の割合が大きかったかもしれません。
日々、同じ仕事を重ねていくことが職人的とするならば自身から湧き上がる思いを込めて制作に挑むのが作家的なのかな、どちらにせよ生業としては厳しい世界だなと薄々感じていました。
そんな将来の不安を抱えていた頃、ある一冊の本が背中を押してくれました。 それは【倉敷ガラス 小谷眞三の仕事】。倉敷ガラスの創設者でもある小谷眞三さんの半生をたどりながら作品写真と共に綴られていました。 小谷さんがガラス製の飾り玉の職人だった頃、ひょんなことからコップを作れないかと頼まれ、専門外の仕事と言い断り続けながら実は試行錯誤しながらやっとの思いでコップが出来上がったというお話。後日、出来上がったコップを見せにいったところ踊って喜んだというこの話を読んでこれがモノづくりの本分なのだと思いました。
自身の作ったもので喜んでもらえることが作家であれ、職人であれ一番尊いものなんだな、と。
その十数年後、地元石川で小谷さんの展覧会があると聞き、初めて生の作品を拝見することができました。大小さまざまな作品からはその人柄が溢れていました。窓際に置かれていた深い青色の花瓶が今は我が家のリビングに。この花瓶を見るたびにものづくりの初心を思い出します。
廣島晴弥
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廣島晴弥