今から25年ほど前、
私は親戚の釣具店の手伝いをしながら夜間の定時制高校に通っていました。
その頃はまだ週休二日制ではなく、土曜日も授業があり通学の車中でよく聞いていたのが夕方5時から始まる【SUNTORY SATURDAY WAITING BAR AVANTI 】。
東京は元麻布、、、の名文句から始まるこの番組はラジオの中で開店するBARが舞台。 そこには常連客の様々な話に聞き耳をたてるといった内容でいつか自分もこんなBARに行ってみたいと妄想しながら毎週楽しみに聞くようになり、BARへの憧れが芽ばいたのもその頃からでした。
それから数年後、
卒業まで残り一年となり改めて今後の進路を決める時期が近づき、このまま続けてお店を手伝うか、以前から漠然と考えていたモノを作る仕事に就こうかと悩んでいました。
そんな時、たまたま寄った本屋で見つけたのがあのラジオ番組のカクテルブックでした。 そこにはまるで実際にあるかと思うようなお店のことや、色とりどりのカクテルとともに様々なグラスが収められ、 今まで頭の中にしかなかった空想が一冊の本の中に存在していました。 うぁ、こんなグラスを作ってみたい、と思ったのがモノづくりを志したきっかけとなりました。
なぜBARに憧れたことがグラスに結びついたのか、今でも不思議です。
それは無意識のうちに今まで聞いていたラジオの中の世界から自分の中で思い描いていた空間に登場する【小道具としてのグラス】に魅力を感じていたのかもしれません。
BARはとても不思議な空間だと思います。
普段ならとても話さないようなことでもカウンターで隣同士に座り、ゆっくりお酒を味わいながら少しずつ気を許し話してしまう。 そのかたわらに寄り添うように佇むグラス。
形のないラジオから受け取ったイメージが一冊の本を通して形として伝わり、今はモノを作ることを生業としている。
改めて考えてみるとやっぱり不思議です。
ただ、BARでたまに遭遇するあのシチュエーションで自身のグラスを遠くから目にするとき、 とても満たされた気持ちになるのです。
廣島 晴弥
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廣島晴弥