カットガラスを学ぶため富山の専門学校に通い始め、授業で最初に習ったのがこの加工機でした。その頃から将来はカットの仕事につきたいと思っていたので助手さんに話を聞くと国内のほとんどの学校や工房ではこの加工機が使われているとのことでした。
その加工機の製作されている方が毎年学内展に来ているとの噂を聞きつけこれは話を聞く良い機会だと思い、思い切って声をかけました。
「工場のある江東区に来れば加工屋がいっぱいあるし切子の教室もたくさんやってるよ」
と一枚の名刺を受け取りました。 せっかく伺った話でしたが学期末もバイトに時間を取られ、結局工場や加工屋さんにも行くことはできませんでした。
それから卒業を迎え、進路も決まらぬままこれから先のことを考えていた時に先生の勧めである切子作家さんを紹介していただき墨田区の工房へ伺うことに。
工房では加工の仕事の現状や道具のことまで伺い親身にしていただきました。これからこんな工房を回ろうと思っているんですと持参した工房のリストを見せたところ、
「こんなにたくさん回るより黒島さんのところで話を聞いた方が早いよ。この辺の加工屋のことはほとんど知ってるから」
とすぐ連絡をとってくれてお邪魔することになりました。 そうです、以前学内展で名刺をいただきご挨拶をしたのが黒島さんでした。
てっきり町工場のイメージを持ち名刺に書いてある住所を目指して歩いているとどうも駅近くの住宅街。ある一軒の住宅のガレージに目が止まりました。そこにははみ出さんばかりの大きな旋盤があり、「あ、ここだ」とやっと気づきました。
「さっき電話くれた?まあどうぞ」
作業の手を止め差し出されたパイプ椅子に座りこれまでの事情をお話ししました。以前学校で名刺をいただいたこと、カットの仕事につきたくて工房を回っていますとリストを渡すと
「あーここはもうやってないよ、あそこは家族だけでやってるから人雇わないよ。」
などなど詳しい話を聞くにつれどこも現状は厳しいのだなと諦めた時、
「すぐ近くにある工場なら歩いて行けるけど聞いてみるか」
とまたまた連絡をとっていただき、近くだからとおかみさんに案内もしてもらうことに。 工場に向かう道中、これまでの仕事のことなど話をしてくれました。
それまでいろいろな部品を作っていたけど近くの職人さんにこんな機械を作ってくれないかと頼まれて始めたのが今じゃほとんどの工場で使うようになったこと。人を雇ったこともあったけどどうも仕事が気に入らなくて続かなかったことなど。
そういえば最初に訪れた工房の作家さんもこんなことを言っていました。
「黒島さんに欲しい道具を言えば全部言わなくても作ってくれる。黒島さんの職人の感がわかるんだろうね、職人が頼りにしている職人だから」
この人に頼めば大丈夫。 この人にしかできない仕事だから。
私が職人という職業に憧れたのはそんな仕事につきたかったからだとその時に改めて気づきました。
つづく
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